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JMM [Japan Mail Media] No.672 Extra-Edition3
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●編集部より 冷泉彰彦氏の新刊を紹介します。
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『「上から目線」の時代』という本を講談社現代新書から刊行しました。なぜ「上か
ら目線」という言葉には重苦しさが伴うのか? この問題意識を軸に、「上から目線」
を批判されて崩壊した自民党政治、「下から目線」で辛うじて延命している民主党政
治の分析から、上下関係を規定してしまう日本語の特質、震災後のSNSでの「つな
がり」まで幅広く論じています。書店等でご覧いただければ幸いです。(冷泉彰彦)
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▼INDEX▼
■ 『from 911/USAレポート』第556回
「橋下徹市長に改めて成長戦略を問う」
■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)
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■ 『from 911/USAレポート』 第556回
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大阪市の橋下徹市長の政治姿勢について、先週のこの欄で行った批判に対し、橋下
市長自身がツイッターでコメントを発信しています。具体的には私の「橋下政治には
成長戦略が欠けている」という問題提起に対して、大阪府のホームページに「大阪の
成長戦略」を掲げているので見て欲しいということでした。
早速閲覧したので、以下5点ほどの提言をしたいと思います。その前にこの「成長
戦略」ですが、意気込みは悪くないのですが「概要版」を見るかぎり、まだまだ本格
的なものではないようです。何よりも、ページの冒頭に掲げられている「宣言」から
して、魂を入れるのはこれからという感じです。以下、その文言を引用します。
「大阪府では、大阪大都市圏の成長を阻害してきた要因を明らかにしたうえで、今後
10年間の成長目標を掲げ、それを実現するための短期・中期(3から5年)の具体
的取組方向を明らかにすることをねらいとして、「大阪の成長戦略」を策定しました。
この戦略は、「大阪が成長するためには何が必要か」という観点から、必要と考えら
れる取組を幅広くまとめたものです。大阪府として取組むべき施策・事業だけではな
く、法制度の改革や創設など国として取り組むべきこと、関西全体で連携して取り組
むべきこと、市町村や民間企業、NPOや広く府民に取り組んでいただきたいことな
ど、さまざまな主体の取組や多岐にわたる内容を盛り込み、関係各方面に共有してい
ただく「提言書」としても、ご活用いただくことを期待しています。」
これでは、この提言は「総花的ですよ」と正直に宣言しているようなものです。ま
た、最新の今年の1月24日の大阪府戦略本部会議で検討されたらしい「大阪の成長
戦略の点検・強化」という資料も見ましたが、1年前の「概要」の延長でしかなく、
震災を受けて一部が修正されただけでした。
これではお役所仕事と言われても仕方がないわけで、この1年間に内外情勢がどん
どん変化しているのですから、戦略戦術もどんどん柔軟に変えて行ったらいいのです。
では、具体的にはどんな方向性を考えて行ったらいいのでしょうか? 5点問題提起
します。
<1.高校だけではなく大学を>
教育がカギというのは正しいアプローチだと思います。人材が成長の原動力である
ことは、20世紀前半の英国の衰退、19世紀から20世紀にかけてのドイツと日本
の成長、昨今の中韓の国際競争力の伸長などを見れば明らかだからです。一方で、現
在の日本で、あるいは大阪で問題になっているのは人材と産業のミスマッチです。
つまり「こういう教育の仕組みをつくり」「こういう人材を育てれば」「こういう
産業が伸びる」という連動が上手くいかないとダメなのです。まず「最先端」の部分
から考えることにします。大阪が本当に先端産業で輝くには、高校のレベルで優秀な
学生を育ててもダメです。いい大学がなければ高校生は東京や海外に流出してしまう
からです。大阪の府立高校を本当にグローバルに通用する人材輩出の場に持っていけ
たとしても、卒業生が精華大やスタンフォードに逃げられたのでは話になりません。
まずは大阪大学をもっと強化して、少なくとも質量で京大を追い越すようにする、
特に理系では東大や東北に勝てる専門分野を一つでも多くするということが必要です。
後は私学ですが、関関同立などといっても大阪市内には一つもない(関学の梅田はオ
フィスビルの中のサテライト的なもの)わけで、これだけの大都市でこれだけ大学が
少ないというのは、異常だと思います。郊外にはあるのですが、郊外にあるとすぐに
東京や京都と結びついてしまうわけで、もっと市内に持ってくる、その上で競争力を
高めないとダメです。
府大と市大の統合などに関しても、特に経済系は今のような国内向けのカリキュラ
ムでは難しいにしても、金融にしても会計にしても、国際基準での人材ニーズは大阪
という町としてもあるわけです。大阪が庶民の町、実務の町、事務屋の町、商人の町
である限りは、経済系の大学は中身を徹底改革し国際化して拡大すべきこそあれ、縮
小というのは逆行です。
先端産業に関しては、総合特区構想というのも動いているようです。確かに医薬品
や医療技術の治験(臨床で有効性と安全性を検証するプロセス)について、日本の場
合に規制が厳しすぎるのは大問題です。ですが、治験を中心とした規制緩和をすれば
製薬や医療機器で国際競争力が強まるというのでは、足りないと思います。もっと
もっと先へ先へと突っ走るようなスタンスがこの分野では求められます。
アメリカの先端産業は、MITとボストンのハイテクや製薬、スタンフォードとシ
リコンバレーなどを筆頭に、大学があって人材が周辺で起業して雇用も生まれるとい
う循環から発達してきているわけです。とにかく大学です。9月入学なんて、東大よ
り真っ先に大阪の各大学が大阪の地域や産業界とセットになって先行してやってしま
えばいいのです。
<2.先端産業だけではない>
前回の私の提言ではハッキリ書きませんでしたが、大阪を再生するには先端産業だ
けではダメなわけです。所詮は中韓の下請け狙いというようなネガティブな言い方を
しましたが、それでも産業として成立するなら立派な再生になるのは間違いありませ
ん。東京の大手メーカーが勝手に自滅して中韓にシェアを取られたら、例えばサムソ
ンやハイアールの部品は大阪がこれまで以上にガンガン作って儲ければいいと思いま
す。
先端産業の誘致というのは時間がかかります。また失敗もあるわけです。特に先端
産業を成長させて、現在の雇用の問題を解決するのには長い道のりがあるわけです。
ですから、現在ミスマッチで苦しんでいる30代から40代の雇用を再生するには、
アジア全体のダイナミックな変化の中でこれまでとは違う発想が必要と思います。
例えば、特に中国のメーカーをターゲットにして中国の会社が進出しやすいような
特区を作るというのは考えられます。80年代に日本企業が進出する際に、アメリカ
の各州が雇用創出のために本当に州政府レベルで骨を折ってくれましたが、そういう
ことがあってもいいと思うのです。
TPPを機会にアメリカの自動車産業が日本でクルマを売りたがっています。連中
のいう「軽自動車規制は非関税障壁」などという勝手な言い分は拒否すべきですが、
その代わりに、フォードに軽四を作ったらどうかと持ちかけて大阪に工場を誘致する
とか、そこから中国やインドの市場も狙うとか、とにかくやってみて、ダメなら走り
ながら方向修正をすればいいんです。自動車の関連で言えば、トヨタが巨大な産業の
ピラミッドを作っていますが、名古屋圏にある部品メーカーの一部は、名阪など高速
道のインフラも進んだことですし、大阪圏に「引っこ抜く」こともやったらいいので
す。
<3.実務の国際化というのは大変に重要>
パナソニックがロジスティックスの部門をシンガポールに持っていくというのは、
色々な理由があると思いますが、一つにはビジネスの実務がどんどん英語になってい
るという問題があるわけです。物流の管理をする人材、後はコンピュータの関係など
は、業務を全部英語でという割り切りをしたほうが優秀な人材を安定的に確保できる
し、トータルではコストが安いんです。であるなら、大阪をビジネス事務の英語での
特区にしたらいいんです。
特にコンピュータ絡みのシステムの運用を全部英語、更に契約書や会計の関係も全
部英語で回るようにすれば、シンガポールに逃げている部分のかなりは呼び戻せるん
じゃないでしょうか?実際には日本の税法やら会計基準やらの古色蒼然とした制度イ
ンフラの問題が邪魔になるでしょうが、企業ごとに経理・総務・人事がコソコソ運用
している「裏ルール」も一緒に潰せばいいのです。それこそこういった問題こそ
「ぶっ壊す」迫力で改革をお願いしたいものです。
大阪はザックバランな町だが、オリンパスのような「ええカッコしいの嘘つき」は
絶対にいないし、制度的にも許さないというのが国際的な信用になれば東京など敵で
はありません。上海も怖くないはずです。広大なアジア経済圏を支える「事務仕事の
インフラ」が大阪はしっかり出来ているということになれば、大阪には人もカネも
入ってくると思うのです。
大阪証券取引所が東証と合併する話が進んでいますが、商都大阪にあるまじき失態
です。人類に先駆けて先物取引を発明した江戸期の堂島の先達に対して、これでは顔
向けできません。話が逆です。オリンパスのような意図的で悪質な企業に対してナア
ナアでは、東証はやがて行き詰まります。大証がサッサと国際標準を達成して、日本
の市場の中心になればいいんです。
<4.人が来れば観光業で雇用創出というのは甘いのでは?>
この「成長戦略概要」で強く出ているのは、観光業の重視ということです。間違っ
てはいないと思います。ですが、単にアジアからのインバウンドなどで人を引っ張っ
てくれば儲かるというのは、甘いと言わざるを得ません。とにかく「滞在させカネを
落とさせる」ということが必要です。
もっと具体的に言えば、インバウンドのお客さんを大阪で2泊させるにはどうした
ら良いかという発想法が必要です。とにかくインバウンドのお客さんにしても、関東
圏あるいは九州からのお客さんにしても、関西圏に来たらお目当ては京都と奈良にな
るわけです。そんな中、大阪は関空のアクセス絡みか、USJに寄る場合は1泊する
でしょうが、早朝便の前泊とか、夜遅く関空についての一泊では「室料と朝食」分し
かカネは落ちません。USJの場合も、USJにカネが落ちるだけです。
ですから、どうしても大阪に2泊させないとダメなのです。提言にあった「大阪を
関西のポータル化(窓口)」というのでは、決定的にダメなのです。ビジネスの戦略
として、何が何でも2泊です。では、2泊すれば、カネを落とさせることができるの
かというと、これも簡単ではありません。今時は、ホテルも激安ビジネスホテルに自
動チェックイン機の時代であり、人が来れば経済や雇用に大きな効果があるという甘
い状況ではないのです。とにかく、メシを食わせる、エンターテインメントを提供す
るというのが大切です。
市長は「大阪はお笑いの街」だから「文楽やオーケストラ」の補助金を切るという
論法を持ちだしていますが、「富裕層向けの文化なのに税金投入を期待する」層を突
き放すのは一理あるのです。ですが、「お笑い」というのは国内マーケット限定なも
のだということは指摘しておいたほうが良いでしょう。私の場合も、アメリカに来た
時に一番難しかったのがコメディの英語で、文脈は複雑ですし比喩は高度で、分から
なくて苦労したものです。
つまりお笑いのエンターテインメントはインバウンドのマーケットには不向きなの
です。そこで、出てくるのが伝統芸能です。わざわざ日本に来る、わざわざ大阪に来
ることで「本格的な大阪歌舞伎」なり「文楽」なりが楽しめるということの経済効果
をもっと追求すべきだと思うのです。伝統芸能だけでなく、ミュージカルとかも良い
でしょうし、ロックフェスでもいいと思います。文化そのものは手間がかかるし投資
先行になりますが、町の差別化には絶対に必要なものだと思います。
次に大事なのは食文化で、成熟しきったB級も愉しいですが、あくまで国内向けな
ので、インバウンド向けの「お値打ちなA級」のグルメというのにもっと力を入れな
いと、九州とか北陸、瀬戸内には勝てないと思います。そうした仕掛け作り、その全
体が機能して初めて観光業というのはカネが落ちるようになるわけです。
カジノについては「そこまで窮したら仕方がない」という言い方を前回しましたが、
ちなみにカジノのビジネスの収益構造というのは、この「提言書」で一応理解がされ
ているようです。ギャンブルそれ自体の収益が中心ではなく、カジノもあるが、エン
ターテインメントもある、美味いものも食える、あるいはインフラができていて、巨
大な見本市もできるというような総合的なビジネスとして、「目的地」の魅力を高め
ようという構想なら、ハッキリそう打ち出すべきです。
<5.貧困層対策も成長戦略>
橋下市長の施政で評価できるのが、西成の再開発を打ち出したことです。西成を家
族の住める街にというのはメッセージとしても、政策としても正しいのだと思います。
ですが、地区を再開発したとしても、貧困層の問題は残ります。ですが、貧困対策は
コストだから成長戦略とは別個というのは間違っているし、貧困層の自立は自己責任
でというのも、もうそれだけでは機能しないと思います。
例えば、私の住んでいるニュージャージー州の州都トレントンというのは、20世
紀の半ばに衰退が始まって以降は完全に荒れてしまっているのです。本当に貧困率は
高いですし、高校の中退率が60%とかで、卒業する子供のほうが少ないという実態
もあるのです。そのトレントンの中央高校というのは、ウチの息子の野球の対外試合
で何度も行ったことがあるんですが、野球も悲しいぐらい弱いのです。道具が買えな
いので小さい時からちゃんと練習できないんだというようなことを、そこの保護者の
人から聞いて驚いたこともあります。
貧困のウラには人種問題もあって、この地域の人口は黒人が過半数なわけです。そ
のトレントン中央高校で、今、先生たちが少ない予算をやり繰りして「調理のクラス」
のカリキュラムを必死に作っているんだそうです。それは「職業に直結させる」とい
うのをコンセプトにして、調理師資格などとリンクさせようという試みなんですが、
(実はアメリカの普通高校でそこまで面倒を見るのは少ない)子供たちにも非常に好
評だというんです。
とにかく、貧困層に職を提供できるような成長であり、全体の成長が貧困層の減少
になるように設計するべきです。膨大な生活保護受給者の問題は待ったなしだと思い
ますが、受給者を他府県に押し出すのでもなく、彼らの困窮を更に悪化させるのでも
なく、とにかく雇用を創出する中で問題を改善する、しかも中央官庁がやってきたよ
うな効果の薄いバラマキではなく、本当に「手に職のつく」ような対策をです。
いずれにしても、大阪府の「成長戦略」の「概要」というのは、まだまだという印
象です。もっともっと仕事と発信のスピードアップが必要ではないでしょうか。まし
て、1年前の方針が固定化・硬直化しているのであれば、これはいけません。
そう考えれば考えるほど、イデオロギー論争は不毛だと思うのです。選挙も終わり、
市政の敵も変わりました。政敵を難詰して追い詰めるのはもう終わりであり、今から
は「衰退」と戦い、本当に成長を勝ち取らなくては有権者の期待には応えられないと
思うのです。
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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空
気」「場の空気」』『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』。訳書に『チャター』
がある。 またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。
◆"from 911/USAレポート"『10周年メモリアル特別編集版』◆
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